『タイトーLDゲームコレクション』(忍者ハヤテ、タイムギャル、宇宙戦艦ヤマト)レビュー:80年代アーケードゲームの“レガシー”を体験する理想形!
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2023年12月14日に発売されたNintendo Switch用ソフト『タイトーLDゲームコレクション』のレビューをお届けします。
LDの特性を活用したビデオゲームが「LDゲーム」
まず、本論の前に「そもそも『LDゲーム』って何? いや、それ以前に『LD』って何よ?」という話から始めなければならないでしょう。
「いまさら説明不要では?」というのは、我々おっさん勢の悪いクセです。21世紀に突入して気付けば20年ほど経過して、カセットテープやレコードに触れたことのない世代がマジョリティになりつつある世ですから。
LDとは「レーザーディスク」という光学式の映像記録媒体。日本では1981年にオーディオ機器メーカーのパイオニアからプレーヤーの国内販売が始まりました。高品位で扱いやすく、劣化のしない画期的なメディアとして、90年代にDVDにバトンタッチするまでは主に映画、アニメマニアの間で普及していました。
LDゲームは、そんなLDの特性の1つ「ランダムアクセスができる」ことを活用したビデオゲームです。
LDの記録情報は円盤状のディスクに書き込まれているのですが、プレーヤー側の制御で任意のポイントにすぐさま移動ができる……これがランダムアクセスなんですね。これ、直線状の記録面を用いたビデオテープメディアでは絶対マネできない芸当ですから。
もっと具体的に説明すると、画面にLD映像と、自機や操作指示などのビデオゲーム映像を合成させて表示。そして何らかの分岐ポイント(プレイヤーの判断を求める場面や、ゲーム上のミスなど)で、すぐさま該当の映像にジャンプするといったものです。
当時「ニューメディア」という言葉が生まれたように、80年代はさまざまな新しいメディアの可能性が論じられ、そして普及した時代。
タイトーでは、映像+ビデオゲームの融合した未来のゲームの形として、いち早くこのLDゲームの分野に着目。1983年に第一弾として、実写の富士スピードウェイの映像を用いたレースゲーム『レーザーグランプリ』を発売。以降、多くのLDゲームをリリースしていたのです。
名作LDゲーム3作が美麗映像でよみがえる!
……と、ここまで前置きがたいへん長くなってしまいましたが、お待たせしました。
『タイトーLDゲームコレクション』は、1984年〜1985年にゲームセンターで稼働を始めた3つのLDゲーム『忍者ハヤテ』『タイムギャル』『宇宙戦艦ヤマト』を、現代の環境に合わせて高画質化(リマスター)した移植作集です。
いずれもアニメ映像を活用したゲームですが、このなかで『宇宙戦艦ヤマト』は史上初の移植作です。
言わずとしれた有名アニメをもとにしたゆえに、移植は絶対ありえないと言われ続けていた『宇宙戦艦ヤマト』がまさかの収録とあって、本作の初発表時はネットが騒然としました。
また、ソフトのタイトルにHDと付いているとおり、映像は現代の画面解像度にフィットするよう、リマスターを施しています。なお、画角はオリジナルどおり4:3です。同じ映像を16:9に引き伸ばしているということはありません。その点は安心してください。
『忍者ハヤテ』と『タイムギャル』は、これまで家庭用機(プレイステーション、セガサターン)などの移植版が存在していましたが、これらは圧縮されたムービーで表現されていたので、その差は一目瞭然。
圧縮ノイズなしの絵で主線はクッキリ、プログレッシブ映像に対応したコマの動きもブレることなくスムース。さらに言うと、LDの映像と同等……いや、それを超えています。
当時のLDはNTSC規格、480iのアナログテレビでの視聴を(ほぼ)前提としていましたので、そんな点でも今回の発売は十分意義のあるものでしょう。
『忍者ハヤテ HD REMASTER』参上! アニメで体感する忍者アクション
ここからは、タイトルごとに詳細紹介&レビューをお届けします。
まず最初に『忍者ハヤテ』です。LDゲームうんぬん以前に、トリッキーな動きが身上の「忍者」というキャラクターとアクションゲームは、皆さんご存知のとおり、非常に親和性の高いものです。
『忍者ハヤテ』はカラクリ仕掛けと忍者に化け物といった難敵が山盛りの城に忍び込み、さらわれた姫を救出する、という物語なのですが、特にストーリーは明記されていません。映像以上の説明は不要という潔さ、というかわかりやすさ! アーケードゲームエンタメはこうでなくちゃ、という感じです。
ゲーム進行については、城内の各シーンがステージ相当になっています。劇中で攻撃を避ける、剣を振るといったアクションが求められる場面(以下、アクションポイント)で、映像の展開とリンクしたアイコン(矢印かボタン)が表示されます。
その表示で求められたレバーorボタンを操作する(本稿では正解と言ってます)と映像はそのまま続き、操作を間違えたり遅いとミス。やられシーンが再生され、いわゆる残機が減る……たったそれだけなんです。
シンプルながらも、LDゲームならではの「映像を体験する」、言葉を変えるとインタラクティブ(双方向的)な面白さがここにあります。すべてのアクションポイントをこなし、シーン映像末まで到達したらステージクリア。(ある程度)ランダムで決められる次のステージに進みます。
アクションゲームですので、このアイコン表示から入力まで、素早く反応するほど高得点です。でも、これまでの説明でお察しのついた方もいるでしょうが、映像のどの場面でどのアイコンが出てくるかは固定です。
つまり、アクションポイントとアイコンを丸暗記して反応さえすれば、ゲームはクリアできます(もっとも、ゲームレベルを上げると鏡写し状の左右反転したステージも出現しますが)。極論を述べると「モグラ叩き」のゲーム性と同一なのです。
が、しかし……前述の「映像を体験する」ことこそがLDゲームのテーマです。この場面では下に動くと正解だろうな、という感じでアニメの展開を予想しながらのプレイを強くオススメします。ずっと楽しさが増します。
画面の情報で、もう1つ重要なことが。アニメ画面をよーく見ると、モノや地形の一部が光るところ(アニメ用語でいう透過光のエフェクト)があります。
これはじつは映像内に仕込まれたヒント。アクションポイントで移動すべき場所や武器を使うタイミングを示しています。シーンによってはアイコン出現前のタイミングで光るので、画面をじっくり見るほど、ゲームが進めやすくなります(これは『タイムギャル』でも同じ)。
なお、アクションポイントでの入力は、アイコンで表示されたものだけが正解とは限りません。
特にナナメ方向の入力を求めるアクションポイントに多いのですが、例えばアニメで右上に移動しようとする場面では、アイコンは右上が表示されますが、レバー右を入力しても正解という感じで、正解が複数あるところが存在します。
しかし、まれに正解はアイコンどおりの1つだけという場面もあるのでやっかいなんですが……。
また逆に、ほんの数カ所だけですが、矢印が複数同時に表示されて、そのうち1つが嘘という悪意しか感じない(?)アクションポイントもあったりします。いずれもプレイを重ねて体で正解を覚えていきましょう。
アイドル時空冒険活劇! 『タイムギャル HD REMASTER』
続いて『タイムギャル』について。『忍者ハヤテ』のおよそ一年後に、主に同じ筐体で基板&ソフトを差し替えた形で稼働を始めたタイトルなので、両作を同じゲームセンターでプレイしたという人も多いでしょう。
こちらは、タイムトラベルをモチーフにしたSFモノのゲームです。主人公は歴史保安警察官の美少女、レイカ。タイムマシンを強奪した悪党ルーダの姿を追い求め、古代から未来までタイムトラベル。ステージに相当する各時代で遭遇するピンチを切り抜けるというのが大まかな流れ。
システムの基本は前述の『忍者ハヤテ』と同じですが、アクションポイントの方向操作が、ナナメをなくした4方向になっているということと、ピンチの場面ではタイムストップを発動し、クイズさながらに3つの選択肢から次の行動を決めるというシーンが存在することが大きな違いです(ここ、常識的な行動が正解とは限りませんよ)。
『タイムギャル』をプレイをしたことはなくても、ゲームの名前、そしてレイカは知っているというタイトーファンも多いことでしょう。
このゲームは、当時のアニメファンから熱い支持を受けていた分野……つまり「SFと美少女」の鉄板要素をバッチリ取り入れたことで話題となりました。レイカの人気はゲームにとどまらず、一時期タイトーのアイドル的存在にもなっていたほどなのですよ。
アニメーション面も『忍者ハヤテ』以上に注目したいところ。アニメブームの最中で、表現技法が著しく進化した1980年代半ばに制作された映像です。
背景をゴリゴリ動かすダイナミックなカットや、80年代アニメのテイストがモロに出ているメカデザインや爆発モーションは、アニメ好きの視点からも楽しめるハズです。
マニアックなオールドゲーマー視点から、1つだけお伝えしたいことがあります。
標準の難易度では、ゲーム後半のアクションポイントで「?」というアイコンが出現することがありますが、これは見てのとおり「映像をよく見て正解を自分で探してね」という意の「?」なのですが、これは当時のアーケード稼働時の標準難易度では登場しなかったものです。
かつてアーケードでプレイしたそのまんまの雰囲気を味わいたい人はレベル設定を1にするといいでしょう。アイコンが矢印とボタンのみになります。
ついでに言うと、今回収録の3作とも、Joyコンではなくアーケードコントローラー、つまりレバーとボタンでプレイすると往年の雰囲気倍増です。収録作のアーケード版での操作体系はレバーと1ボタンですから。
もう1つのヤマトを体感『宇宙戦艦ヤマト HD REMASTER』
最後に語るのは、このゲームを楽しみにしている人も多いことでしょう……初移植の『宇宙戦艦ヤマト』です。
ストーリーは劇場用映画『宇宙戦艦ヤマト 完結編』をベースにした独自のものです。
地球を襲おうとする水惑星アクエリアスを阻止するためにヤマトが出航。航海中に遭遇する4つのシーン(ステージ)をプレイして、最後にアクエリアスのコア部の破壊を目指すという、前出2作とは趣が異なるゲームとなっています。
各ステージは、アクションポイントで適切な入力を行う従来の仕組みに加えて、ヤマトやゼロタイガーから砲弾を放ち敵戦闘機や敵弾を破壊するシューティングゲームシーン、コスモタイガーのコックピット視点で敵拠点に潜入するフライトシーンなど、バラエティに富んだ構成になっています。
ただ、難易度は3作中最も高いといっていいでしょう。「求められるアクションポイントで、求められる行動をしなければならない」のは前出2作で同じなのですが、映像の展開を把握しないと、いきなりアクションポイントが出現して面食らったり、そもそもこのシーンは何をすべきかがわからない……といったことが多いのです。
でも、ですよ。このことはネガティブなことでは決してありません。(アイコンを頼りにさえすればとりあえず進めた)前出2作とは異なるアプローチで、映像の物語世界に没入させる施策なんだと思うと、あぁなるほど、と納得できます。前述の「映像を体験する」色彩を濃くした作りでもあると言い換えることもできるでしょう。
なにせ、ゲーム冒頭の出航シーンからして、「島、障害物に注意せよ」のセリフを聞き逃してボンヤリしているとヤマトは出航できませんから!
アニメーションは、このゲームのために制作した新規アニメパートも多数存在しているといいます。
メディアミックスが当たり前の現代ならいざ知らず、1985年当時で、アーケードゲームのために新規カットを制作した(しかも大メジャー作で!)という点でも興味シンシンのアニメファンは多いのではないでしょうか。
今だから体験できる80年代アーケードゲームの“レガシー”
以上、若干悪ノリした気もしなくもないですが、アーケードのオリジナル版を3作とも当時体験したおっさんゲーマーがプレイしてみて感じた、本作の楽しみどころ、注目してほしい点を中心に書いてみました。
今回、80年代タイトーを語る上で欠かせない「LDゲーム」という分野がクローズアップされたのは、クラシックゲームファンのみならず、あらゆる世代のゲームプレイヤーにとって意義のあることだと思います。
LDという時代の使命を終えたメディアを載せた特殊なゲーム機を、現代のゲームセンターで稼働するのはほぼ不可能なこと。80年代のゲームセンターを一時、賑わせたこの特殊な分野のゲーム世界をまとめて追体験できる環境はほぼなかったのです。
LDゲームを遥かに超える“リアル”が家庭で体験できる現代では、ある程度人を選ぶことになるのは仕方ないことですが、本作で80年代アーケードゲームを語るうえでで欠かせないレガシーに触れてみるのはいかがでしょうか。
製品情報:タイトー LDゲームコレクション
タイトル名:タイトー LDゲームコレクション
対応機種:Nintendo Switch
ジャンル:アクション
メーカー:株式会社タイトー
発売日:2023年12月14日(木)発売
価格:
通常版 9,680円(税込)
特装版 19,580円(税込)
(c) TAITO CORPORATION 1984, 1985, 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
(c) 東北新社/著作総監修 西﨑彰司
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